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彼は本の中ほどのページを開く。本の概要はこの人物の辿った歴史。つまり、人類がいかにして他の種族を圧倒してきたか。または、如何にして迫害、支配を試みたかが記されている。「ポールオン・ヴォーナ」とは、人間の英雄にして、他種族においての仇敵そのものであった。アンジェはあるページを開く。そこに記されているのは、稀代の天才が妖精に対して行った政策、または弾圧であった。当時、あるレッドドラゴンが人間に対して猛威を振るっていた。火竜の勢いは凄まじく、多くの死傷者を生み出した。だが、かのポールオンはある手段を用い電撃的にこの竜を討伐した。それが、今も戦術として存在している「妖精鱗粉(パウダー)」という戦法で具体的には。
バタンと、本を閉じる。それなりに厚い本だったから、思ったよりも大きな音が出た。ちょっとびっくり。もしかしたら、怒ってたからかもね。あーやだやだ。友達をマヨネーズみたいに加工する作業なんて聞きたくないや。やっぱり人間ってやだなぁ、なんで僕人間なんだろ。
さっといつもの服装に着替える。魔法で劣化から防護されているため服を着替える必要はない。しかし、それだと先生と一緒でいつも同じ服じゃないか、それは嫌、との彼の流儀から寝間着は必ず着替えるようにしていた。
「おはよう、先生」
食堂へ向かう途中、通りかかった研究室に先生を見かけたんで、挨拶した。
「おう!アンジェ!今日も早いな!そんなに勉強したいのか、ちょっとまってろ!」
彼は昨日とは一転して、髪を後ろ手に縛っていた。印象は同一人物とは思えないほど変わっている。きちんと着付けていた彼のシャツとジャケットは今や形無しである。白衣も椅子に投げ散らかされていた。彼は何か粘土のようなものを捏ねくりまわしていた。
「先生?それ何やってんの?」
先生は待ってましたとばかりに。
「爆 弾 調 合 !」
と、言ってのけた。
「うわぁ!またやってるの!?前に大失敗して死にかけたじゃないか!」
「何いってる!あれは失敗じゃない!成功のためのデータ採取だ!錬金術師に失敗っていう文字はないんだって何回言えばわかるんだ。できないのは途中でやめちまうからだって言ってるだろ!錬金術師は絶対に途中で放り出さないんだぜ?その辺りが他の研究者連中との違いってやつよ」
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