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アンジェは生まれも育ちもこの森である。だから、世界といったらヒュガイズ博士から学んだ様々な学問からしか知らない。あとは、妖精の友人のみだ。世間知らず、という秤に乗せられるだろうが、彼自身の知識量は狂った博士のおかげで非常に偏っている。魔法言語学、魔術、錬金術。主にこの分野のとがった方向性への知識が豊富である。よって、一般的な知識がたまに抜け落ちていることがある。こんな風に。
「料理にはやっぱり火力が大事だよね」
彼の魔術回路は全系統が含まれている。もちろん、火の呪文を扱える。簡単な呪文なら動作のみでも作動させられる。自然、料理の時は自分で火をつけるのだが彼のいう火力は、どうみても度を越していた。フライパンの中の具材たちはほとんど黒に近い色になっている。
一般知識からするとどうも、まずい状況ではあるが彼にとっては毎日のことなので気にもなっていない。
「うーん、もう少しかなぁ」
何がもう少しなのであろうか。
剣が空気を断裂する。音をたて金属の塊が美しい弧を描く。幾千もの剣筋。彼の動きは剣の道を知らないイライザにも洗練されて見えた。
鬼気迫るでも無く、気が抜けているでも無く、ただ専心一刀の太刀筋の乱舞。剣術とは結局のところ如何に力を使うかという技術だ。その配分、バランスはその個人の感覚による。アンジェはその感覚を追っている感覚が好きだった。理想の感覚を掴んだ時は思わず、笑みがこぼれる。そのためだけに剣を振っているような、変わった少年であった。
最後の一刀が振るわれる。今日の稽古はその一刀で終了となった。
「あー楽しかったー!」
アンジェが声を挙げた。剣術の稽古の後の彼はいつもこのように上機嫌である。
「ほーんと、いいよねーアンジェは、剣振ってれば死ぬまで幸せなんじゃないの?変態っぽいよ」
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