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イライザが愚痴をこぼす。自分ができないことへの半分やっかみでもある。
「たぶんそう!」
あはは、と笑いながらイライザの方を向く。イライザの皮肉はいつもこんな風に返されてばかりであった。
「アンジェには、いつもながら無駄ね…」
「なにが?」
「なんでもない!それよりこの後どうする?今日はまだ日が落ちるまで時間あるわよ?」
アンジェは少し考えながら歩いた。
「う~ん、そうだねぇ。ねぇ、僕のこと友達に紹介してくれない?」
「えぇ!?またそれ?」
「また!」
妖精は、この森に棲む。どこに住んでいるのかは妖精以外知らない。アンジェでさえもイライザがどこに住んでいるのかは知らない。理由は単純だ。妖精は人間を信用しない。彼らの間には歴史という名前の壁がまだ立ちはだかっている。彼と彼女が例外なのだ。イライザがどうにか断る方法を探していると、そよ風のように木々の隙間から声が聞こえてきた。
「おい、あれ見ろよ。イライザだぜ」
「ホントだ、アクマと一緒だ」
そんな声が彼らの元にも届いた。ただ、姿は見えない。声だけである。本来、妖精というものは人間の前に姿を現すこと自体を非常に忌み嫌う。中には人間に見られただけで呪われえるという偏った迷信も存在していた。
「おい、あんまり声かけんなよイライザに聞こえるぞ」
「もう聞こえてるよきっと」
「アクマの方には聞こえてないよね」
「ニンゲンなんかがわかるわけないじゃん」
「でも、イライザと話してるよあのアクマ」
妖精の声が反響して森の中のこだまのように響く。彼らの言う通り普通の人間にはおそらく、妖精の言葉を理解することは難しいだろう。彼は普通ではないが。
「こんにちは!僕の名前はアンジェっていいます!出てこなくてもいいからお話ししませんかー!」
突然、声を挙げて彼は話し始めた。イライザは予想していたらしく、やれやれという様子である。
まさか、自分たちの声が人間に聞かれているとは思っていなかったのだろう。少年と見える妖精はみな口を閉じてヒソヒソとした会話に切り替えたようだ。動揺がその声から見て取れるが、内容までは入ってこない。
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