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ヨレヨレのジイさんが、ゆっくり近づいて来るんだ。
どんな表情かって?
……それが表情どころか、顔ですら覚えてないんだよ。
毎日見かけるジイさんで、さっき俺が声をかけた時は苦笑いをしたのも見たのに、ジイさんの顔が分からねえ。
俺よりもうんと小さいのに、その体から出てる、“オーラ”っつーの?あれが、禍々しいっつーか。
ハンパねえ汗が出たね。
ジイさんはただ歩いてるだけなのに、猛獣が俺に狙いを定めて歩いてくるような圧迫感があった。
それで、俺に言ったんだ。
「 」
はっきりと俺は聞いたんだ。
聞いたけど、日本語なのか、言葉なのか、音なのか、イメージなのか、わからない。
でも、聞いたんだ。
それがきっかけで俺がこの事務所に居るのかって?
違うよ。
ジイさんはこっちの世界の人間じゃない。
あのジイさんにはついて行けない。
そんな大博打
俺は打てない。
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