山手213番館

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それはそれで愉快な経験だろう。建物の主人が一体どのような人なのかも興味深い。 古くから横浜の街に住んで居るのだろうから、僕が探している「横浜」を感じる事も出来るだろうか? 少し愉快な心持ちで連絡先の番号を押した。 こざっぱりとした格好はしているつもりだ。 『初対面の印象はとても大事だ』 昔、祖父は僕にそう言った。 どれだけ内面が磨かれていても、相手がその内面に触れる気持ちにならなければ意味がない。 彼は、そんな事を子供の僕に言い聞かせる人だった。 いつも伸びていた背筋が頭に浮かんだのは、目の前の洋館が、祖父の立ち姿みたいに凛としているからだろう。 僅かな時間、コール音が流れる。聞こえた声はあまりに予想外な……若い女性の声だった。
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