山手213番館

10/34
前へ
/355ページ
次へ
「はい、麻生です」 娘さんだろうか?落ち着いた彼女の口調に、僕は慌てて言葉を返す。 「あっ、あの。学生課から紹介で伺いましたーー」 「沢村公平くんね?」 「はい……」 「ちょっと待っててね」 その言葉で電話が切れる。言葉の通りに彼女の姿が現れた。 僕から十メートル程離れている建物の右側。 右手にクラシカルな金属製の如雨露(じょうろ)。 鮮やかな水色の、短いTシャツにデニムのジーンズ。 布地のデッキシューズ。 庭の手入れをしていたのだろう、軍手を嵌めた手を僕に向けて小さく振っている。 要するに、極めてシンプルな装いなのに……華やかなのだ。 宝塚みたいな人だ……何故だかそう思ってしまう。 もちろん、僕は宝塚歌劇団の女性に会った事はないのだけれど。
/355ページ

最初のコメントを投稿しよう!

502人が本棚に入れています
本棚に追加