山手213番館

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まあ、僕は要するに異邦人で、決められた期間を過ごすだけなのだから下世話でワイドショー的な考察をするべきではないだろう。 最後の一口を口へ運ぶ。キッチンへ回り込むと、洗剤とスポンジが見えてカップを洗い、ステンレスのカゴにそっと並べた。 今日はもう出掛ける予定はなくて、食事会だと告げられた時間までは二時間も余裕がある。 そもそもテレビは見ないので、パソコンを開こうとして手が止まる。 依存はしないが、ネットは必要だ。回線が繋がっていなければワープロ程度の機能しか果たさない。 ネットのケーブルが引き決まれている様子も無かった。大学が始まれば流石に必要だけれど、後で考えれば良い。 静寂の中で、読みかけの文庫本を取り出してページを捲る。横浜が舞台のミステリー小説。 中華街や本牧や元町も出てくる。見知った地名が出てくるのは、楽しいものだ。 没頭し始めたら、窓の外が薄く暗くなり始めた。壁のスイッチを押すとオレンジがかった灯りが天井から落ちてくる。 立ち上がって窓を覗くと、庭のあちこちでポォっと照明が光っていた。 アパートとは違う、贅沢な光景だった。
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