sommeliere

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夜の七時十五分前、お腹も空いた僕の横でスマホのアラームが鳴る。 パタンと本を閉じる。残りは僅かなページで、後ろ髪を引かれる気分だった。 約束は、七時にお店『213番館』だった。 貸切なのか、其れとも他にお客さんがいるのかもわからない。 折り目を付けたチノパンに、特別な時に着るシャツと茶色い皮の靴を履く。 何とか、あの店にはぎりぎりセーフだろうと思う。 ドアを開けると、偶然、僕の隣のドアが開いた。 「あっ、初めまして。僕はーー」 高いヒールに、肩を出した薄いグリーンのシンプルなドレスを着た綺麗な女の人は笑いながら左手を突き出した。 「だからぁ。挨拶は纏めてって言ったじゃない」 「えっ?えぇー」 「覚えておきなさい。女は化けるモンだからね」 「すいません……」 まさか、あの上下ジャージ姿で珈琲を淹れていた彼女が目の前の女性だとは思わなかった。 「ほれ、若者。エスコートさせてあげる」 スッと横に立ち、僕の肘を持ち上げると軽く手を添える。 呆気にとられる僕の肘をツンと引き、歩き始めた。
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