序章

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歌で聞き覚えのある桜木町や馬車道、海沿いにホテルが立ち並ぶベイエリア、いつも観光客が溢れる中華街。 山下公園や元町や、本牧まで原付を走らせた。 アパートで地図を眺め、場所を確認したのは最初の頃だけだった。 週末を幾つか潰して中華街をうろついても、甲府には無い海沿いを歩いても、古い洋館の在る通りを散歩しても…… お気に入りの場所は見つかるけれど、それだけの事なのだ。 僕はこの街で生まれて、 祖父や母や記憶の彼方だけの父親の想い出は詰まっていても、 僕の探す「横浜」は見つかりそうに無かった。 アパートと大学とバイト先を行き来するだけの生活に落ち着くのに時間は掛からなかった。 全ては僕の勝手な幻想だったのだ。 僕は、自分が何を探しに横浜を選んだのかさえ曖昧に感じ始めていた。 大学に慣れ、それなりに友人関係が出来れば、それが自分の居場所になるのだろう。 僕は自分にそう言い聞かせるしか無かったのだ。
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