山手213番館

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「えっ?それ困ります!」 「本当に申し訳ない。もう仕方がないのよ」 二階建てのアパートは、確かにオンボロで階段も今にも崩れそうに錆びていた。 一階の角部屋に住む老夫婦が大家さんで、掃除だけは毎日欠かさずしてくれていた。 時折は作りすぎたと言って煮物をくれたりする優しい夫婦だった。 冬にご主人が体調を崩して、良い機会だと老人ホームに移る事を決めたのだと僕に告げたのだ。 アパートは売却されてマンションに建て替えられるらしい。 他の住人はどうやら了解したらしく、今更僕だけが反対するわけにもゆかなかった。 もう三月で、手頃な物件は既に新入生で埋まっていて。 学生課に駆け込み、不動産屋を回るけれど部屋は見つからない。 携帯に連絡があったのは、アパートに戻り途方に暮れていた時だ。 「二年間だけの限定で、場所は元町なんだけどどうします?」
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