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「やだ! やっぱりそのカッコ、笑っちゃう。……ちょうど良いわ、ちょっと来て」
周囲をみわたすと、人を避けようとした結果、演劇部の部室の近くまで来ていた。演劇部は旧体育館を部室代わりに使っていて、敷地内でも少し外れた場所にある。その為、文化祭の劇で使う衣装や小物は新体育館に持って行ってあり、文化祭の最中はこの辺りは閑散としているのだ。
日比谷さんは部室に僕を引っ張っていった。
旧体育館の施錠は、扉にぶら下がっている南京錠で行っている。でも日比谷さんは当然という表情で、その南京錠に鍵を差し込んだ。
「日比谷さん、それ……」
「ああ、返すの忘れてたの」
悪戯っぽく笑う日比谷さんに、その言葉の真偽を疑ってしまうが、それを口にする事は出来ない。そのまま日比谷さんと中に入ると、衣装を置いてある部屋に向かった。
そこにある衣装を日比谷さんが見繕い、一着のドレスを僕に着るように促す。確か日比谷さんが在学中にシナリオにした『青いドレスの女』の衣装で、空色の柔らかなシルエットのドレスだ。でも僕は化粧を落とす為に部室に来たのだと思っていたので、慌てて頭を横に振った。
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