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『はい、駒田産婦人科医院です。どうなされましたか?』
コール音が途切れて朗らかな声が聞こえてくると、ソラはほっとしてちいさくためいきをつく。電話番号の裏に書いてある言葉を、聞き取ってもらえるようにゆっくり声を出した。急いで伝えないとと焦る。震える唇が、歯に当たって切れた。
「先日お世話になった、小寺です」
広い部屋にソラの震えるような声がにじむ。
「は、母が部屋に倒れていて……あの、苦しそうで、えっと……でも、さっき大丈夫って話して、気は失ってなくて……それで、えっと……」
緊張のせいか焦りのせいか、泣きそうになりながらなんとか話す。吹き抜けの向こうから扉を開く音がした。わんわんと激しく吠えるポンの声が家中に響く。ニーナが部屋に駆け込んできた。
「ソラ、お父さんが帰ってきたよ!」
息せき切って伝えてくれるニーナに深く頷くと、ソラは母の様子を丁寧に伝える。階段を駆け上がってくる父の足音に、ひどく安心した。部屋に飛び込んできた父が「あらら」と小さくつぶやいて、ソラの頭をなでる。そのままそっと受話器を受け取った。
「お電話かわりました小寺咲喜の夫です。……はい、はい。分かりました、すぐに連れて行きます」
電話に向かって話をする父の落ち着いた声を聞き、ソラはぐっしょり濡れた頬を腕でおもいきりぬぐった。受話器を台に戻すと、父はソラのほうを見てニコリと笑う。頬はすっかり乾いていた。
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