第二話

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ソラは、ベンチのタオルをそっとつかんで頭をガシガシふく。自分の体から出る湯気が温かく、ふとんの中に入っているような気分だった。このまま眠って何もかも夢にしたいと思いながら、ふうと大きく息をつく。着替えをすませて自動販売機に小銭を入れる。スポーツドリンクのボタンを押してペットボトルごと飲み込む勢いでぐっとあおった。きんきんに冷えた甘い水が、ソラの喉の奥をぐいぐい押す。はっと息を吐いて口からペットボトルを外すと、ボトルの中に大波が起きた。キャップを閉めると、プールバッグの中に入れて更衣室を出る。後ろからペタペタという足音がした。 ソラの父は昨夜中に帰宅した。 母は、結局入院することになったが状態が悪いというのではなく、出産直前だからまた調子が悪くなってもすぐに診れるようにという病院側のはからいからだ。この話をソラは朝に聞き、大丈夫だと安心しながらも「入院」と言う言葉でまた不安にもなった。父の笑顔が大丈夫だと言っているのだから、大丈夫であると分かってはいるのだが。
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