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スイミングスクールを出ていつもの歩道を進む。ソラが普段出るよりも早い時間に出たにもかかわらず、夕日もすっかり西に隠れてネイビーブルーがソラの頭上に迫ってきていた。ソラのわきを走る風もずいぶん冷たく、ここに来た時よりもずっとよそよそしくなったようにソラには思えた。車道を走る車からもれるため息がひどくくさくて、背を向けるようにその場を早足で過ぎていく。住宅地に入ると車の音はほとんどせず、小さな子供たちがわいわいはしゃぎながらソラのそばを通り過ぎて、また戻って抜かしていく。彼らの母も、家の前で楽しそうに話をしながら子供の成長を見守っている。ニーナはソラの背中をじっと見ながら後ろをついて行った。お互い、何も話すことなく「小寺」の表札を目指す。
ニーナだけでなく、ソラも、今は話をしたいという気分ではなかった。こんなにも自分の気持ちがあふれたのは初めてで、どうすればいいのかという迷いに心まるごと翻弄されていた。鳥の鳴き声と、どこかの家が飼っている犬の吠える声、それから子供がはしゃぐ声でにぎわっており、声をだしても音になって届くようには思えない。重い足を引きずるようにしてアスファルトの上を移動し、まだ見慣れるには少し新しすぎる家の門を抜ける。扉についていたビニールは、いつの間にか外されていた。
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