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「ただいま」
父に何かを聞かれたらまともに答えられるか心配だったが、このあふれ出た感情に正直になってしまうのもありかもしれないとソラの心が揺らぐ。靴を脱いで廊下を進んでみるが「おかえり」の返事はなく、リビングのほうから父が電話でやり取りをしている声がきこえる。おおかた母の病院からの電話だろう。ちょうど今は何も話したくない気分だった。ソラは洗面所で手早く手を洗ってうがいをすると、階段を上がって部屋に向かう。途中ポンがついてきたが、部屋に入ってくる前に扉を閉めた。ニーナはいつスズに戻ったのか、ソラが部屋の扉を閉めるとソファの上にふわりと現れた。
ニーナはうつむいてクッションを抱える。小さな子供が親に怒られてしょんぼりと反省してる時の、その雰囲気に近かった。ソラはゆっくりその隣に座る。プールバッグから飲みかけのスポーツドリンクのペットボトルを取り出しテーブルに置いた。ふう、と息をついてソラはのんびりと天井を見た。明かりをつけないままだと、部屋は薄暗かった。
「ソラは、水泳が嫌いなの?」
静かに、というよりは、かすれたようなニーナの声。静かな部屋ではぽつんと浮かんで行き先が見つからずに消えていく。ソラは足を投げだして、ううん、首をかしげた。久しぶりに声を出したかのような感覚に、喉が焼けるかと思った。
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