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『悲しいの? 苦しいの?』
「……悲しいよ。ニーナ、ソラが悲しいって、悔しいって思っているのが分かるから。それに、ニーナじゃソラを励ますことはできないから」
小さな声は、穏やかな小川のせせらぎのように部屋の中にかすかに流れる。ポンは撫でられて心地いいのか目を細めながら前足を枕にしてそこに顔をうずめた。ポンをなでるその指先が、じわじわと白い粉のようになってその場に蒸発していくのを見ながら、ニーナはもう一度「悲しいよ」とだけ呟いて、ポンと同じようにソファに横になった。明かりのついていないソラの部屋は、ひどく暗かった。
階段を下りるとソラを待っていたのは父の満面の笑みだった。とても楽しそうに笑う姿は、ソラよりも少年らしい。さっきまで話していた電話の子機をエプロンのポケットに入れて、父はソラの頭をぐりぐりとなでた。ソラはわけが分からず黙って撫でられる。
「お、お父さんどうしたの?」
「ソラ、あのな、さっきソラが通っているスイミングスクールから電話があったんだ。ソラのいつもの泳ぎを見て、とてもほめてくださったぞ~! それで、このままこのスクールにいるのはもったいないっておっしゃってな、ソラさえよければ有名なコーチの先生か有名なスクールに推薦しますっていうお話をもらったんだ」
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