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頭を殴られたかのような感覚。
ソラは信じられない気持ちで父を見た。それからすぐに目をそらす。父の輝くようなまなざしにこたえられないことが分かっているのに、これ以上視線に焼かれなくてもいいのではないかと思えたのだ。言葉を返すことができず黙ってエプロンのポケットに入っている電話の子機を睨んだ。「すごいな~ソラ! お前そんなにすごいのか! 父さんも見てみたいなあ」と嬉しそうに話す父の声など耳に入らない。
「どうする? 母さんにも相談してみようか」
ソラの表情を見ながら、明るく話して再び受話器に手をかける。それを見て、ソラはとっさに息を吸った。こぶしを強く握る。今日泳ぎきった時の屋内にあふれた拍手がまた頭に反響する。
「ねえお父さん」
「うん、なんだ?」
メガネの奥の瞳がソラを包むように笑む。ぐっと瞼を瞳に食い込ませる勢いで目を閉じ、その深い緑を父に向けた。
「ボク、水泳やめたい」
丸い眼鏡の奥の瞳は、ソラの言葉に驚きはしたが見開くことなくゆっくりまばたきをした。まるで、その言葉が来るのを予想していたかのような反応だった。子機に伸ばしていたはずの手は、静かにポケットに収まっていた。
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