第三話

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鏡には自分の袴姿が映っていた。少しゆとりをもって紐を結んだせいで、せっかくの袴が残念なことにだらしなく見えてしまう。男性にしては少し長めの、好き放題カールした髪をクラスメイトからもらったヘアピンでとめる。大きなイチゴのビーズが、頭の隅で見え隠れした。 青年は黒い自分の髪がまとまったのを見ると、「よし」と呟く。かけている大きなレンズの丸メガネを外して今よりずっと鏡に近づいた。そばの棚に置いてあったプラスチックケースをつまんで、中からコンタクトレンズをつまみあげそっと眼球に当てる。両目にプラスチックを詰め込むと、ゆっくりまばたきをして鏡から離れる。時計の針がさす時間を見て、その場でぴょんととびはねる。ふわふわの黒髪が柔らかに揺れた。 「やっべ、そろそろいかないと!」 焦っているのかよくわからないほどの明るい笑みでそう言って、青年は後ろを振り返る。うしろには、小学生のときに買ってもらって以来のものであろうぼろぼろのデスクと付属の椅子があった。そしてその椅子の上に座っている影に、青年は笑いかける。青年と同じように袴姿の少女だった。少女は青年に背を向けて座っており顔は見えないが青年と同じ、きれいな黒髪だ。それを後ろで高く結び、毛先はまっすぐに切りそろえられている。青年は鏡の台にかけてある大きな弓と筒状の黒いプラスチックケースを手に持って、少女に向けて「行くよ」と話す。弓を覆う布を縛るホルダーには、水晶のような不思議なガラス玉がつけられていた。
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