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椅子に座っていた少女は青年の声でゆっくり振り返る。窓から差し込む朝日に、白い頬が光をふくんでまばゆくまたたいた。少女が何かを言おうと口を開きかけると、そこで、小寺大河(こでら たいが)は目を覚ました。
一度たたかれベルをとめられたことで役目を終えたとでも言いたげな目覚まし時計を慌ててつかんで、時間を確認してからまた枕に頭を沈める。寝ぼけ眼でメガネを探して耳にかける。おどけたような丸い眼鏡は、真面目に見える銀縁などのかっこいい眼鏡よりもなぜか落ち着いた。もうすっかり秋になり風もひんやりしてきているのに、自分の首元を汗が流れていくのを感じて思わずため息が漏れた。
ーー『水泳をやめたい』か……。
自分の息子が持っていた見覚えのあるキーホルダーは、大河の見間違いではない確信があった。スズは自在にアレンジしてもらえるが、レパートリーは豊富ではない。ブローチがいいといえば誰が何と言おうと同じデザインのブローチになるし、キーホルダーがいいと言えばキーホルダーにしてはくれるが、パターンは限られていた。そして大河は、アレンジの際にそのキーホルダーのデザインを見せてもらったことがあったのだ。
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