第三話

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だとすると、ニーナが姿を見せなくなった理由とは何なのだろうか。ソラは、ふとんから顔だけを出して「ニーナ」とかすれたような声で呟いた。喉から無理矢理空気を出したかのような声だった。もちろん、部屋はしんとしたままで返事などはなかった。 静かすぎる部屋の中に、無意味だと分かっていても寄せてしまっていた期待を粉々に砕かれる。ソラは一日に何度か部屋にくる父の足音を感じながらふとんから出る。おなかに優しいからと出してくれていたおかゆは、手を付ける気になれず一口も減っていなかった。 ロフトのはしごに足をかけて、滑り落ちないように丁寧に下りる。ニーナはこのロフトというつくりが珍しいのかやけに気に入って、よくロフトの中にいた。テーブルの上に置いてあるおかゆをスプーンですくってみる。ひんやりと冷め切ったおかゆからは、湯気も出なかった。口に含んでみても、ぬくもりはない。コンコン、と扉を軽くこつく音。ソラは、おかゆを口の中で転がした。 「ソラ、入るぞー」 声をおさえた父が、扉の向こうでそう言うのが聞こえる。これまで父がソラの部屋に来たときは、ソラはベッドの上で転がっていたため、今回だけ返事をするのもなんだかおかしく思えて、ソラは黙って扉が開くのを見ていた。許可をとるための声ではなく、念のための確認の声にすぎないことは、ソラも父も分かっていた。ポンもいるのか、扉ががりがりと引っかかれる音もする。羽織っている上着のファスナーを首元までしめる。あまり音をたてないようにか、扉はひどくゆっくり開いた。
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