第三話

9/93
前へ
/237ページ
次へ
ソラがそう言うと、父はそっと笑顔になって部屋を出て行った。ポンの足音もそれを追って小刻みに聞こえてくる。父の後についているらしい。しばらくして、履きなれていないスリッパで階段を上がってくる音がして、ソラは再びおかゆをふくんだ。生ぬるい液体はのんびりと口内を泳ぎながら、ざらざらと舌の上を通り過ぎた。開いたままの扉の向こうにリクが現れる。ソラの顔を見ても明るい笑顔はなく、何かを覚悟したような緊張した顔つきだった。ソラはその雰囲気に気圧されて唇をかみしめる。後ろから現れたセーラー服のハナが父にそっと頭を下げた。女の子とはハナのことだったらしい。 部屋の扉がカチャと金属の音を立てながら完全に閉まるのを待って、リクはテーブルを挟んでソラの目の前に座る。黙ったまま、ソラの明るい緑も鮮紅色に染めるかのような勢いでじっとソラの目を見た。自然と目に入るリクの制服、まだ数日しか着ていない駒田小学校の制服が、ひどく懐かしく感じた。すっかり色が落ちたリクの赤いボウタイが控えめに揺れる。ハナはそんなリクのようすを心配そうに見て、それからソラに遠慮がちに笑いかける。なにが起きているのか分からず、ソラはハナに向かって頬を引きつらせることしかできなかった。
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加