第三話

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リクの叫ぶような声は、ソラがいつも聞いているリクのものだった。 ーー『焼けてないし、花もある』っていうのは、こういうことだったんだ。この霧に飲み込まれたら、全部がさっきのあの花みたいに灰に……ニーナのボクとの記憶も、このカゴも……。 震える足を奮い立たせてソラはぐっと息を吸う。霧にまじって上がってくる煙には、もうくさいと感じなかった。 「わかった! ありがとう!! リクはどうするの?」 「俺はここを抜けてねーちゃんたちと待ってるよ。この霧に俺のニーナの記憶まで焼かれたらたまったもんじゃねえしな!!」 あはは! と弾ける笑顔。リクの顔はうそがつけないらしく、引きつった頬がむしろ新鮮で心地いい。「そっか、わかった」と返して、ソラは足をニーナへと動かした。背中にリクとリクのニーナの視線を感じる。ゆっくりと進めていた足は霧が濃くなるにつれて徐々に早歩きになり、霧によってどんどん見えなくなっていくツタに近づこうと駆け足になりながら進む。いくら完全にほどける前に会えたとしても、ニーナの記憶がなくなってしまっていると話にならない。足元に咲いているライラックの花を踏まないように飛び越える。水泳で肺が鍛えられているはずなのに、ソラはすぐに息が上がって横腹が痛んだ。
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