第三話

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ーーもっと速く、速く走って早くカゴの中に行かないと。 霧の広がりは早く、リクと別れる前は見えていた天井の模様も今は見えなくなっている。ほぼ視界がきかなくなった場所で、ソラは自分が進んでいる方向が正しいのかさえも分からなかった。ずきずきと痛む脇腹を両手で抑えながら足を走らせる。ソラが芝を踏む音と深く呼吸をする音以外には、何も聞こえなかった。 ソラはふと、さっきまで足元に咲いていたライラックがすっかり見えなくなったことに気づいてかがんで足元を見る。そこには、ライラックのものであろう灰がいくつも山になっていた。肺になった花を掬い取ると、隣に小さな木製の箱が置いてある。ソラがそこに灰をぱらぱらと落とすと、箱の中にあった特殊な砂に焼かれて空気な抜けたような音を発しながら一筋の煙になって消えていった。ふと見ると、その小箱はもうそこにはない。ソラは背中がひやりとした。 ーーこんなのまるで……!! 耐えられなくなってソラは再び立ち上がる。がむしゃらに走り回るのは賢明ではないとわかってはいるが、動かずにはいられずまた走り出した。しかしその拍子に足が絡まりその場に倒れる。固い地面に顔も手のひらも膝も思い切りぶつけて、痛みに起き上がることを忘れてしまうほどだ。ひりひりと痺れるように痛む手でなんとか起き上がる。そしてはたと、まばたきをした。
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