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「だって、そうだろ。彼女、すごく積極的なんだよ。オレがどうかわしてもただただ夜神に会わせろの一点張りなんだよ。」
「俺らのこと、言わなかったのか。」
「そんなの、」
言えるワケないだろ。
男同士で付き合ってる、なんて。
「言えないに決まってるだろ…」
「なんで?」
なんでって…
夜神は怖いと思わないのか?
同性同士の恋愛なんて、外国じゃあるまいし、そう簡単に受け入れられるものじゃない。
今頃1人で夜神の戻りを待っているであろう半井さんも、同性同士の恋愛が存在するということを、そもそも認識していないかもしれない。
「男同士だぞ? いくらオレとお前が好き合ってても、世間の目は甘くない。
悪く言われるのがオレだけならまだいい。でも、オレの家族も、お前の家族も巻き込まれたら? お前の家族は、父親は、お前と一緒にいられなかった時間を埋めたいとずっと願ってた。なのにお前が家を出たのが、男と付き合う為だったなんて思われたら、お前の家族はどう思う?」
「………」
夜神を好きになって。
夜神と付き合うようになってから、ずっと心の奥底にしまっていた思い。
恐怖。
どれだけ好きでも。
男である自分が、男を好きになることで、自分が生きてきた世界が一気に覆される。当たり前だと思っていた世界から、取り残される。
そんな恐怖が。
「同性同士に対する風当たりが強いのはわかってるだろ? いくら好きでも、どうにもならないことだってあるんだよ。こんな生産性のない関係、本当は普通じゃないんだ─────」
ふと、手首に違和感。
というか、解放感。
さっきまであまりにも強く掴まれすぎて、あまりの痛みに感覚がほぼなくなってきていた手首が解放され、痛みがぶり返してきた。
そして、
「───────……」
左頬に走る激痛。
…殴られたのだと理解したのは、一瞬頬の感覚が消えた後にジンジンと痛みが出てきた時だった。
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