2、入学式

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「進、ごはんよー。遅れるわよーっ」 リビングダイニングから母さんの声がする。 一緒に生活し始めるのは久しぶりだけど、それでも違和感を感じないのは、両親がよく祖父母の家を訪ねてきてくれていたからだと思う。 母さんの言葉に生返事を返しながら、洗面台に映る自分の顔を見つめる。 買ったばかりの度が入ってないカラコンは左右の目の色を同じにしてくれている。 何度か瞬きをして馴染ませてから、昨日買ったばかりのワックスの蓋を開けた。 人混みにの中に紛れるのは久しぶりで、昨日は圧倒されるばかりだった。 母さんに言われた通り、ふらふらしながら美容室を選び、散髪をしてもらい、勧められたワックスを買って、使い方を聞き、それから本屋を見て、量販店でカラ―コンタクトを買った。 カラコンはただの『お守り』代わりにしかならない。 ただ、それは人が多い都会の中でこれから生きていくために俺にとって必要な物であるに違いない。 その点に関しては祖父の時代に比べるとずいぶんと便利になったと、俺は思っている。 こんなもんかな。 鏡に映る俺の姿はつい半年前とは全く別人のように見え、自分でも可笑しくなる。 だって俺はずっとド田舎に居たんだ。 こんな風に髪型を気にする事なんて全然なくって、二か月に一回、祖父に連れて行かれるボロボロの理容室で適当に切って貰ってただけだったから。 ―大学になったら都会に行くんだ。 ―それまでに、それまでに、お前は……。 祖父の言葉が頭を過る。 鏡の中の俺が俺を見つめている。 黒い瞳が二つ、まっすぐ、俺を見つめている。 その目の先に祖父の顔がふっと浮かんで、鏡の中の俺は口元を歪めた。 大丈夫だよ、じいちゃん。 じいちゃんとの約束は、一生……破ったり、しないから。 「進! いつまで洗面所に居るのっ! あー、もう、ほら、ネクタイ曲がってるじゃない」 ドスドスと足音が響き、おめかしをした母さんが顔を出す。 少し濃いめの化粧に、つけすぎなんじゃねぇのってくらいの香水。 「お父さんはとっくにご飯食べちゃったわよ。あんたも早く食べて。じゃないと、遅刻しちゃうじゃない」 「わぁってるって。……分かってるって」 笑みを消し神妙な顔になるのは俺だけじゃなく、母さんも同じだった。 人混みはまだ慣れない。 だから俺が普通じゃないって事、本当に気を付けないといけないんだ。
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