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「おいっ!」
一言、謝りたいと思った。
だから……小さくなっていく背中に向かって、叫ぶ。
「おいっ! おいっったら……」
けれど、何度叫んでも、奴は振り返りはしない。相当落ち込んでしまったのだろうか。
そう考えると、オレも不安になってきて……ついには止めてた足を動かし、奴を追う。
「おいっ! お前、待てよ!」
追いかける間も呼びかけるが、奴は振り返らない。きっと、聞えてるんだろうけど……相当落ち込ませたらしい。
「おいったら……!」
駆け足になって追いかけたら、やっと奴の背中に近づいて、そのまま腕を掴んだ。
「え……?」
そこで、やっと奴がこっちを振り返る。そして、オレの姿を確認して、目を見開いた。
「その……さっきは、悪かった。ただの、八つ当たりだ」
はぁ、はぁと、乱れる息を整えながら、素直に謝る。オレの呼びかけに振り向きもしない程落ち込ませたのだから、当然だろう。
「そう……。ところで、何でそんな汗だくで?」
少し元気を取り戻した声色で返ってきた言葉にホッとしながら、今度は少し文句を口にする。
「言っとくけどな、これはお前が悪いんだぜ。オレが何度も呼び止めたのに……一度も振り返らないし……」
二度と振り返らないその背中に、不安を感じたのは、この際隠しておく。
「え? だって……呼び止めたって……誰を呼んでるのか、分からなかったし……名前でも呼ばれたら、直ぐに振り返ったと思うけど」
あんなに必死に走って、呼び止めたのに……その苦労は何なんだ? という答えが奴の口から返ってきた。
「だって……お前の名前、知らないし……」
聞く必要ないと思ってたから、仕方ない話だけれど……。
「だって、名前を名乗るどころか……話すらしてくれなかったし」
こっちが反省してるからって、奴は更に付け加えた。あー、そうかよ、全部オレが悪いんだよな。分かったよ、くそう!
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