私の違和感

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「なんだよ、それ。七瀬はいくつになっても俺の妹分だろ?」 あれ? 私、なんて答えたんだっけ? 「七瀬。目を覚ませよ」 目の前のお兄ちゃんの顔が苦しそうに歪む。 「だって、お兄ちゃんが私のせいで……」 そうだ。あの時。 信号が青に変わって歩き出した私。 止まっていた車が急発進してきて。 驚いたような運転席のお年寄りの顔が見えたのはほんの一瞬のはずなのに、私にはスローモーションのようにはっきり見えた。 ドンと体に受けた衝撃は想像していたものとは違った。 お兄ちゃんに突き飛ばされた私は前のめりに横断歩道に倒れ、そのすぐ横にお兄ちゃんが跳ね飛ばされて落ちて来た。 その後のことは記憶にない。 でも、最後に見たお兄ちゃんの体の下から血が広がっていた。 「やだ! やだやだ! お兄ちゃんが死ぬなんて、やだ!」 「七瀬! 大丈夫だから。俺は死んだりしないから。おまえを残して死んだりしない。だから、目を覚ませ!」 あの時、ぐったりして目を開けなかったお兄ちゃんがどうしてこんな普通にしているんだろう。 大体、ここはどこ? 「おまえは頭を強く打っただけなんだ。自分で目を覚まそうと思えば覚めるんだよ。わかるか?」 「お兄ちゃんは?」 私が目を覚ましたって、そこにお兄ちゃんがいないのなら覚めないままでいい。 「俺はおまえと一緒じゃなきゃ戻らない。でも、早く戻らないとヤバいみたいだ。ほら、見ろよ。ばあちゃんが手を振ってる」 え? と顔を上げると、遠くにおばあちゃんが見える。 でも、あれは手を振っているというよりは……。 「おばあちゃん、シッシッて追い払うみたいにしている」 「だな。来るなってことだろ。さあ、一緒に戻ろう」 お兄ちゃんが手を差し出した。 私はその手をじっと見つめた。 「お兄ちゃん、私のことが心配だから好きな人にプロポーズできないでいたんでしょ? 私はもう大丈夫だから、お兄ちゃんはお兄ちゃんの幸せを掴んで」 お兄ちゃんの目が大きく見開かれて、参ったというように片手で顔を覆った。 「誰に聞いた? お袋か?」 コクンと頷いた私の手をお兄ちゃんが掴んだ。 「おまえ、勘違いしている。こっから先は戻ってから言うから」 グッと引っ張られて、私は真っ白い世界に堕ちて行った。
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