私の違和感

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呼び止められて、振り返るとそこには大好きなお兄ちゃんがいた。 なんでお兄ちゃんが? 何かが間違っているような違和感。 「ったく。なにやってんだよ」 突然、そんなこと言われたって。 「本当トロくさいんだから。俺がついてないとダメなんだな」 口から飛び出るのは辛辣な言葉なのに、彼が優しく微笑んでいるのはいつものことだ。 「うん。私、お兄ちゃんがいないとダメなんだよ」 泣きたいような気持ちになるのは、どうしてだろう。 ”お兄ちゃん”と呼んでいるけど、本当の兄妹じゃない。 同じ団地のお隣さん。 ”東条のおばさん”こと彼のお母さんはシングルマザーで、昼の仕事と夜の仕事を掛け持ちしていた。 だから、お兄ちゃんは学校が終わると毎日うちに来て、一緒に遊んで宿題をやる。 二つ年上だからわからない問題を教えてくれたりもした。 それから、私のおばあちゃんが作った夕食を一緒に食べる。 両親は私が生まれてすぐに交通事故で亡くなったので、私はおばあちゃんに育てられていた。 夕食の後はお兄ちゃんと一緒にお風呂に入って大声で歌って、おばあちゃんにご近所迷惑だって怒られて。 一緒のお布団で寝るけど、朝起きるとお兄ちゃんはいない。 夜中に帰って来たおばさんが連れて帰るから。 でも、学校に行くのは一緒だから、毎朝お兄ちゃんの家に迎えに行く。 お母さんは寝ているからと静かに食パンをかじるお兄ちゃんの横で、私も黙って待っている。 そんな毎日を過ごしてきたから、私たちの間柄はお隣さんと言うよりは兄妹に近かった。 「俺がいないとダメなのに、なんで昨日、あんなこと言ったんだよ」 昨日? 昨日……。 「『もう妹扱いしなくていい』だなんて」 黙り込んだ私を睨んで、お兄ちゃんは続けた。 そうだ。昨日。 昨日はおばあちゃんのお葬式だった。 風邪から肺炎になって、一か月の入院の末のあっけない最期だった。 団地の集会所でやったお葬式には近所の人がたくさん来てくれた。 世話好きな明るい人だったと、みんなでおばあちゃんを偲んでくれた。 本当に悲しい時は涙なんて出ないみたいで、私は喪主として会葬のお礼を述べていた。
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