私の違和感

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お葬式のことなんて何もわからなかったけど、東条のおばさんが葬儀屋任せにしちゃダメだって言って、いろいろ教えてくれた。 おかげで滞りなく終えられて、位牌と遺影を両親の仏壇に並べたところでお兄ちゃんが訪ねてきたのだった。 「七瀬、疲れたろ?」 「ううん。片付け、任せちゃってゴメン。どうもありがとう」 お兄ちゃんにはお葬式の後の集会所の片付けをお願いしていた。 「これぐらい当たり前だよ。俺がどれだけばあちゃんに世話になったと思ってるんだ?」 お兄ちゃんが悲しそうに微笑むのを見て、私もやっとこみ上げて来るものを感じた。 「ありがとう。私、いつもお兄ちゃんに頼ってばかりだね」 お兄ちゃんは昔から年の割にしっかりしていて、いつも私の面倒を見てくれた。 優しくて、お兄ちゃんがそばにいてくれたら、何があっても大丈夫だって思えた。 私はそんなお兄ちゃんの優しさに甘え過ぎていた。 でも、もうダメだ。 お兄ちゃんの足枷にはなりたくない。 「七瀬は思っていることも言えずに、全部抱え込んで一人で頑張ろうとするから。もっと俺を頼れよ」 お兄ちゃんはそう言うけど、私、知っているんだよ。 だから、もう”お兄ちゃん離れ”しなくちゃ。 私がもう一度お礼を言うと、お兄ちゃんは目の前に鍵を差し出した。 集会所の鍵だ。 「七瀬が自分で返しに行きたいのはわかったから、俺も一緒に行くよ」 集会所の鍵は自治会事務所に返却することになっている。 うちの団地は第一から第三まであって、それぞれ十二棟ずつある。 自治会事務所は第一団地にあるので、第二団地のうちからは徒歩で二十分ほどかかる。 車は持っていないし、バスで行くほどじゃない。 「え、いいよ、一人で。帰りに銀行とか市役所にも寄らないといけないし」 人一人が亡くなると、いろいろ手続きしないといけないことがある。 死亡届を出す前におばあちゃん名義の預金を全部引き出しておかなくてはならないのだ。 「全部一緒に行ってやるよ。葬儀屋に払う金も下ろしに行くんだろ? お袋も『危ないからついていてやれ』って」 そう言われたら、ちょっと心配になってきた。 物騒な世の中だ。香典泥棒だっているんだから、用心したほうがいいのかもしれない。 「じゃあ、お願いします」
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