もう一つの見方

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「それは、多分。この世界から里美ちゃんをそのまま元の世界に連れて行って、俺の知り合いの竹原が里美ちゃんの死体を安置しているから……。その死体の中に入ってもらう……?と……それで、蘇るんじゃないかな?」  花田の何とも言えない言葉を聞いていると、智子は頭を抱えて唸りたくなったようだ。小さく歯ぎしりし始めた。智子も里美が生き返るのはとても嬉しいのだ。出来れば、この世界で隆と同じ行動をしたいと思っていた。けれど、智子は現実的に……どうしても考えてしまう人だった。  隆はあれから5日間。この世界で半ば不眠不休で走りっぱなしだった。さすがに、一人になると寂しかった。涙が自然と零れる時がしばしばあった。  腹が減ったら黒田から貰った釣り具で一旦停車させて、牛丼やキムチ鍋、そら豆のスパゲッティなどを釣って。トイレは地上へと車でそそくさと降りた。  寂しい気持ちと里美がこの世界にいるはずという嬉しい希望。早く会いたいと思う気持ちからくる強い焦燥感。それは、この世界の恐ろしさは微塵も感じさせないほどの心境であった。  カモメが数羽こちらに寄って来た。  隆はカモメにアイスクリームを与えているうちに、さすがに極度の眠気が襲ってきていた。前方に虹が見えてきたが、思考もまともに出来ないほどの眠気で、隆は仕方なく、車を空中で停車させて少し眠ることにした。  里見が小学校へと入ってからだ。幼稚園でも一緒だった中島 由美と中友 めぐみと仲が良くいつも一緒だった。特に中島 由美の両親とも隆と智子は仲が親密で、よく、体を休めないといけない珍しい休日の時は、学校への里見の送り迎えをしてもらった。そんな時の里見の寂しそうな顔は今では胸に大きな穴が空きそうだった。  隆と智子はそんな中、出来るだけ里美に 愛情表現をしようと、仕事の合間や珍しい休日の時には無理をできるだけして必ずお弁当を作ってやる習慣を身に着け、そして、公園へと三人で出掛けた。  けれども、その時は年に数回ほどだった……。  6時間程寝ていたが、隆は起きると涙を拭いて寂しさを振り切った。 「あれか……。虹とオレンジと日差しの町……」  前方に遥か遠くへとアーチを伸ばしたオレンジ色の虹が現れ、その上にオレンジ色の町があった。  虹とオレンジと日差しの町である。
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