倫ではないということ

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「あら、このタレントさん不倫しちゃったのね~」 突然、テレビを遠くからみていた妻が呟いた。 「へ…へぇ~」 俺はドキッとして裏返りそうな声を抑え、モヤモヤした心を必死に隠した。 「なーによ、興味ないふりしちゃって。あなたこの人のファンなんでしょ?」 「えっ!?……いや…」 「何年一緒にいると思ってるの。気づかないわけないじゃない、馬鹿ね。 この人がテレビに映るとあんなに目の色変えてたくせに」 ニヤニヤと笑う妻の顔を見て、俺は唇がガタガタと震えた。 女という生き物は…なんて怖いんだ。 俺は仕事へ向かう途中の駅のゴミ箱に、破いた手紙と丸田山清美の画像を集めたSDカードを捨てた。 気づかなくては。 もうお互いに、変わりすぎてしまったことに。 電車の窓に、見事なビール腹をした寝不足の老けたおっさんが映っていた。 あの頃の真っ直ぐな俺ももういない。
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