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山川は椅子の背もたれに身体を投げ出すようにだらしなく座り、リモコンを片手に持ったまま呆けたようにテレビを見上げていた。
浩人はカウンターの中に入り、自分でジョッキに生ビールを注いだ。
「ヒークンうまいね」
「札幌で店長やってたからな」
「いっそオレの代わりにこの店を切り盛りしてみるのはどうだ」
山川は画面から目を離そうとしなかった。
「バイト代くれるなら考えてもいいぞ」
浩人は自分で注いだ生ビールをあおった。
「バイト雇う金は無いなあ」
リモコンでかちゃかちゃと画面を切り替える。
「ねえねえ、山ちゃんさあ、なんで急にやる気なくなっちゃったの?」
里佳が山川に聞いた。
「客、ぜんぜん来ないんだ」
声に力が無かった。
「ああ、そんな話しないで。私だって」
里佳も急に落ち込んだかのようにがっくりと肩を落とした。
「なんだよ、おまえら。しけてんなあ」
「なによ、ヒークンは景気いいの?」
「いや、全然。まあ、でも思ったより家の手伝い忙しいしな」
「結局やっぱり実家の商売継ぐ気なんだね」
「そんな気ないって」
「だって、仕事探してないでしょ」
「探してるよ」
「ハローワークとか行ってないじゃん」
「今どきは仕事探しもスマホだね」
「あ、五七五になってるね、それ」
なぜか山川が目を輝かせた。
「あーあ」
里佳はカウンターに倒れこむように両手を投げ出した。
「なんでもスマホとかネットなんだよね。地道に営業って時代じゃないのかなあ」
「ババアかよ。おまえ、何歳なんだよ」
「旅行代理店はね、ていうか大手じゃない中小の旅行代理店はね、営業とパンフっていうかチラシとかなの。営業は私ががんばるし、チラシもヒークンに頼んで作ってもらったの私は悪くないと思うんだけど、なんかそういう正攻法だとうまくいかないのよね」
「オレは言われた通りに作っただけだけど、見直すか?」
「そうねえ」
里佳は鞄から取り出したチラシを見つめた。
「持ち歩いてるのか?」
「基本ね。いつどこで説明する機会があるかわからないから」
「仕事熱心だな、おい」
「そうかなあ。普通だと思うけど」
「なに、チラシあんの?」
「あ、山ちゃん、どう、このチラシ」
「おお、これ、櫛田が作ったのか」
「おう」
「うまいな」
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