第1章

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“自分が死んだ” それは今の『俺』には衝撃的過ぎて受け止めきれない。だが、約束のことを考えると何故か、急がなければならないという思いが胸に広がる。そしていつの間にか『俺』の頭の中は約束のことだけで一杯になった。 「……そうだよ、こんなところでぐすぐずなんてしてらんないんだ……!!急がないと……、急がないとあいつに嘘つき呼ばわりされちまう……!!!」 「ちょっ、何処に行くんですか……!!」 そう叫ぶと『俺』は走りだした。 ***** 「はぁっ、はぁっ……。ここ、は……武道館……?」 ただ思うままに走り続けた『俺』が辿り着いたのは武道館だった。 迷わず中に入り剣道場のドアを開けると、決勝戦なのか選手二人以外戦っていなかった。 一人は白い道着に赤い襷、もう一人は黒い道着に白い襷だった。 急いでコートの近くまでいき試合表が貼り付けてあるボードを確認する。どうやら延長戦にまで縺れ混んでいるようだった。それがわかるとすぐに試合に目を向ける。 赤い襷の方が戦況有利なようで、相手の隙を見つけては打ち込んでいっているが、白い襷の方は調子が悪いのか、剣先が不安そうに揺れていて相手の攻撃を防ぐのに精一杯なようで、あまり攻めれていなかった。 そんな状況が数分間続き不安で一杯になった『俺』はとうとう叫んでしまった。 「もっと気合い入れて攻めやがれ!!!!優勝するんだろうが!!!!情けない試合してんじゃねーぞ!!!!!!!」 だが、『俺』が出せる限りの大声で叫んでも誰一人としてこちらに目を向ける様子はない。 しかしその直後、白襷の動きが何故か良くなった。不安そうに揺れていた剣先は勇気づけられたかのように相手の喉元を狙い、自信なさげだった動きに迷いがなくなった。 まるで、誰一人として聞こえなかった『俺』の声が『あいつ』にだけ届いたかのようだった。 そんな白襷の突然の変化に驚いたのか、赤襷の動きが一瞬だけ止まった。その瞬間を見逃さず、白襷が赤襷のがら空きの面に飛び込んだ。白襷の放った竹刀は、小気味良い音とともに相手の面に吸い込まれるように当たった。そして、三本白い旗が上がる。 勝敗が決した瞬間だった。
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