柱の陰

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柱の陰

「ここの駅、事故多いんだよな」 「狭い割に利用者が多いから、いつも込み合ってるもんな」 「ちょっとカーブ気味で、電車が来るのも見えにくいし」 「根本から改善しないとどうしようもないよなー」  学校帰りらしき男子学生た達が、プラットホームで語り合う。  確かにその意見はもっともだ。でもこの駅には、もっともっと根本から、事故が起きても仕方がない理由がある。 「うわっ! 押すなよ! 危ないだろ!」 「? 俺、押してないけど」 「え? あれ? 今、でも確かに…」  声を荒げた学生の一人がきょろきょろと周囲を見る。だけど異常は見つからず、不審そうではあるが探索をやめた。  探しても無駄だよ。もう、その近くにはいないから。  さっき、柱の影から伸びた手が、あの学生君の背中を押した。でもすぐに引っ込んで、今はどこかへ雲隠れだ。  この駅でやたらと事故が起こる原因。それはあの、柱の陰からちよろちょろと伸びてくる手だ。  まず間違いなく幽霊だ。でなきゃ妖怪変化かも。  とにかくこの世のものじゃないその手は、人の目に触れることはなく、のうのうと現れて生身の人間の背中を押す。あるいは足を引っ張ったり前方から小突いたり。 ともかくやりたい放題だ。  そして、好きに振る舞ってすぐ消える。  駅構内の柱総てがあいつの隠れ場所なことまでは判ったけれど、今いる居場所を特定するのは至難の技だ。  人海戦術でも使えれば、もう少しどうにかなるかもしれないけれど、前に駅員さんに訴え出たら、頭のおかしい奴だと思われた。だったらもういいやとなって、俺はこの件を二度とは口にせず、ただ自己防御に努めている。  あれがいる限り、この駅での事故は多発する。でも忠告は聞いてもらえないもんな。もう知るもんか。  ほら、今もあの手は柱の陰にいる。  時にはこっちに、あるいはあっちに。  そう転々と居場所替えながら、いつだって、無防備な誰かの背中を狙い続けている。 柱の陰…完
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