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すれ違いの毎日が続いた。家族は揃っているというのに、夜は暖かいご飯とは対照的に冷たい空気が流れていた。惠もそれを悟っているようで、年齢に似使わないほど静かな子供に形成されていた。
僕はなんらかの対処が必要とわかっていたのに、それを先延ばしにしてきた。どころか、毎日のように会社で残業を残す日々は、僕をしだいに家から遠ざけた。気の遠くなるような資料の山と、部下の指示が日常生活の困難を突き付けて、気付けば会社で寝泊まりする生活になっていた。
疲れた体で久々の帰宅する。まっさきに鼻につく悪臭が自分を呼び覚ました。嗅いだことのない腐敗した匂い。ハエが二、三匹飛んでいた。台所のシンクは黒ずんでいて、僕はおもむろに家中の窓を開けた。新鮮な空気を吸い込むと、背後に死神に囚われたように顔をしかめている幸恵の姿があった。髪筋は乱れて、出会ったころからは想像できないほどの身なりをしていた。
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