第1章

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 ★ 僕が社会にでてまず身に着けたのは、マナーではなく忍耐であった。小さな出版社のフリーペーパーの、尻を拭くにも存外なものを書き上げることだった。上司からたびたびのダメ出しを喰らい、その結果毎日帰るのは深夜であった。休日も返上の生活を支えてくれたのは、「おかえり」という一言があったからだ。  幸恵と同居して半年が過ぎていた。幸恵はパートをしながら僕の帰りを待っていてくれた。 「今日はフリタータッタだよ」  いつも初めて出てくる単語に耳を疑う。竜田揚げかなと思っていたら、イタリア風のオムレツらしい。具に卵やパスタを使っているので、キッシュにも似ていて、一応おいしかった。  味には不満はないが、いったいどこからネタを仕入れてくるのかが不思議に思う。聞いてみても、家がそういう料理だっとしか返って来ない。こちらも深く追及する気はなかったので、追求することはやめた。
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