第1章

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「いつもお疲れさま。お風呂わいているよ」  幸恵がお腹を膨らせた俺に息抜きを勧める。  僕はお礼を言って、風呂へと入る。湯気立つシャワーが体を温めた。目を閉じて髪を洗っていると、引き戸を開ける音がする。 「背中流すね~」  その声を聞いて僕は驚きがあった。今までこんな展開はなかったので、気恥ずかしい思いが大きかった。でも、幸恵は僕の思いなど関係なしに泡立てたタオルで背中をこすり始める。感情とは裏腹に気持ちがいい。  初めての性体験のように、僕は胸が高鳴っていた。介護にはまだ早すぎるが、僕は幸恵の思いに身を任せていた。  一緒に湯船と入ると、幸恵が俺にもたれかかってくる。幸恵の髪の末端からぽつりと雫が垂れ落ちる。湯船で波紋が広がる。  わかっている。二人でいる時間が少ないことくらい。  僕は言葉にできないもどかしさを埋めるように幸恵の唇に重ねる。悪びれた口づけをしても満たされない日々を埋めることができないことを知っていながらそんなことしかできなかった。幸恵は文句も言わずに、僕に一心に笑顔を向けていた。 「大好きだよ」
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