年の瀬

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例えばクローンがリセット処置されても、それ以前の記憶の手がかりがあれば簡単に元に戻ってしまうこと。クローンも脳は人間と同じだ。そんな簡単に都合の良いデータだけ消去できない。 コートのポケットの中でテープレコーダーがカタカタと小気味のいい音を立てた。 もしくはそれを知るクローンが人間に隠している。素知らぬ顔で真っ白な白衣に身を包み、こんな年の瀬まで真面目に働くふりをしているなんてことは。 秘密だ。 コートの反対側のポケットで鳴る携帯電話を掴んで、明後日の方向に思いっきり投げた。 灰色の空の中、赤い携帯電話は弧を描いて、雪の溶けかけた車道の上に着地した。僕の隣を、黒い煙を吐き出しながら大型トラックが通過していった。 パキンと携帯電話が割れる音が耳の奥で聞こえたような気がした。
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