年の瀬

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レンガ造りのマンションの角を曲がって、エメラルドグリーン色の小さなアパートの階段を上った。 カンカンと階段を上がるたびに靴についた雪がはらはらと落ちていく。 階段から二つ目。ドアの前にピースリリーの鉢が置いてある部屋のインターフォンを押した。 バタバタと足音が聞こえた後に、ドアがガチャンと開いた。 「おかえりなさい!」 太めの眉毛に赤い頬。ヘアバンドで上げた前髪。パーカーにホットパンツ。 満面の笑みで迎えてくれた、愛すべき彼女の首筋に唇を落とした。 「ただいま。幸(さち)」 そのまま幸を強く抱きしめる。 「千春? 大丈夫?」 耳元で甘い声が聞こえる。僕の背中を叩く優しい手。言うつもりのなかった事が口をついて出た。 「幸。今日は人格が消去される前のクローンを取材したよ」 思ったより情けない声。幸に抱きついたままそう話す僕の頭を幸が撫でる。 「拉致事件の子ね。どうだった?」 「ちょっと悲しくなった。……嫌だな。こんな事話すつもりなかったのに。聞いて、僕は今日悪い事をした。携帯電話を捨てたんだ。両親に与えられていたのに」
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