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「千春。私には何でも話していいんだよ。お母様は怒らないわよ。私たちの事も祝福してくれてる」
幸が僕の耳元でそう囁いた。幸の声は脳髄を甘く痺れさせる。聞いていると頭がぼうっとする。
「TV見よっか。中においで。寒かったでしょ」
暖房のきいた暖かい部屋の中で幸が僕のマフラーをそっと外す。コートも、手袋も。目が合うと幸がはにかむように微笑んだ。彼女は初めて会った時とずいぶん面変りした。
出会った頃は前の恋人と別れたばかりで、痩せ細り隈ができていた。遠縁の親戚にあたる母も幸の事を心配していた。
「千春。日付が変わったら初詣に行こうよ。神様にお願いしに行くの。来年もいい年になるように」
幸はたまに不安そうにする。その度に前の彼氏の影がチラついて、僕は胸が苦しくなる。僕は小さなシングルベッドに座って、幸を見上げて言った。
「初詣には行かない」
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