年の瀬

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「え? ……なんで? もー、冗談?」 自分のくせっ毛を指で触りながら、幸が困った顔でぎこちなく笑う。 「冗談じゃないよ。幸と初詣にはいかない」 “幸と”を強調して言ったら、幸の表情が曇った。信じられないといった顔で僕を見る。 「何で? 人ごみ嫌だった? それとも疲れちゃった? 仕事辞めていいよ! いてくれるだけでいいの、千春!」 幸の瞳に涙がたまる。泣くふりなんてよしてよ。僕は知っているんだ。幸はこういうのが好きなんだってこと。前の彼氏みたいな。僕は幸に笑ってみせた。 「来年がいい年になるのなんてわかりきってるのに、行く必要ある?」 「もー! 千春のバカ」 幸はきょとんとした後、意味を理解してホッとしたように笑った。そのまま笑いあっておデコとおデコをくっつけた。 「大好きだよ、幸」 幸の指が僕の首筋にそっと触れた。左の首の静脈の上。僕のバーコードがある位置だ。白と黒をなぞるように幸の爪が動く。 「私も」 胸がきゅんと痛んだ。僕の方がきっと好きだよ。 「ずっと私と一緒にいてね」 もう何度も聞いた。リセットされる前も、後も。何度も。幸は感情的で、すぐに僕の事をリセットする。そしてまたすぐに愛を囁く。
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