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「ずっと傍にいるよ」
何度リセットされても。記憶を書き換えられても。
僕はもうC-hじゃない。childシリーズのクローンじゃない。母から幸に譲られる時にカスタマイズされた。
偽りの家族と過ごした日々は覚えてる。でも忘れる。今の僕は幸のためだけに存在しているんだから。
「こっちにおいで」
幸の好きな口調で彼女を呼び、抱きしめて、くせ毛を指に絡めて遊んだ。僕は幸を愛している。このヒリヒリした感情も上書きされた人格プログラムなんだろうか?
「春になったらどこか遠くに行こうか。旅行しようよ、幸と僕と2人で」
幸が目を輝かせる。今と全く同じ僕がその旅行に同行できるかはわからないけれど。大丈夫。コートの中の録音テープは今も回っている。
人間の記憶は消されることはない。幸の記憶は消えない。でも僕の記憶は簡単に消される。この不条理の理由は1つ。幸が人間で、僕がクローンだから。それだけだ。
少しだけ乾燥した赤い唇にキスしながら、口に出来なかったイチゴ飴の味を想像した。
僕は知らない、人間の食べ物の味を想像した。
【年の瀬】
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