12人が本棚に入れています
本棚に追加
檻を挟んだ反対側の扉から外に出た。灰色の空からシンシンと雪が落ちてくる。いっきに身体が冷えて、トレンチコートの襟を立てて、黒いマフラーに口元を埋めた。
コートのポケットの中のテープレコーダーをぎゅっと握りしめる。
反対側のポケットで携帯電話が震えた。
【母】
「もしもし」
『もしもし。千春(ちはる)? お仕事終わったの? 元気にしてるの?』
母はよくこういう電話をかけてくる。
「さっき終わった。元気だよ。父さんは? お酒飲んでない?」
『飲んでるわ、もう手に負えない。酔った父さんの相手はあなたの役目だったんだから。あなたがいてくれたらって思うことが多いわ。ねえ、やっぱり――…』
「ごめん。今から地下鉄だから、切るね。急いでるんだ」
積もった雪を革靴で踏みしめるとキュルキュルと音がなった。携帯電話をまたコートのポケットに仕舞う。
最初のコメントを投稿しよう!