年の瀬

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檻を挟んだ反対側の扉から外に出た。灰色の空からシンシンと雪が落ちてくる。いっきに身体が冷えて、トレンチコートの襟を立てて、黒いマフラーに口元を埋めた。 コートのポケットの中のテープレコーダーをぎゅっと握りしめる。 反対側のポケットで携帯電話が震えた。 【母】 「もしもし」 『もしもし。千春(ちはる)? お仕事終わったの? 元気にしてるの?』 母はよくこういう電話をかけてくる。 「さっき終わった。元気だよ。父さんは? お酒飲んでない?」 『飲んでるわ、もう手に負えない。酔った父さんの相手はあなたの役目だったんだから。あなたがいてくれたらって思うことが多いわ。ねえ、やっぱり――…』 「ごめん。今から地下鉄だから、切るね。急いでるんだ」 積もった雪を革靴で踏みしめるとキュルキュルと音がなった。携帯電話をまたコートのポケットに仕舞う。
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