年の瀬

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ザクザクと雪を踏みしめて歩いていく。地下鉄の階段の隣にある売店を覗いた。新聞の隣にあるイチゴ飴を手に取る。 「110円ね」 おばちゃんが無愛想に話す。僕は軽く謝って、イチゴ飴を元の場所に戻した。 そのまま地下鉄の階段の前を通り過ぎて、道なりに歩いた。 半分以上の店のシャッターは下ろされていた。“新年あけましておめでとうございます”といった内容の貼り紙がある。 肉屋の前でスコップを手に雪かきをしている青年がいた。厚いジャンパーにニット帽。僕はその隣を通り過ぎる。 「おつかれ様です。よいお年を」 顔を上げて人懐っこく笑う彼の首にはまた同じような白黒のバーコードがあった。 「……よいお年を」 人間の比率とクローンの比率が逆転したとか、以前ゴシップ誌で取り沙汰されている時期があった。 でもその頃より、ぴたりと言われなくなった今の方がより真実味を帯びている。静寂が不気味だ。 記者になって数年。年々他人に口外できない秘密を抱えることが増えた。
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