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余韻を残して離れた唇。
そして野上は私をギュッと抱きしめると、無言のまま立ち上がり資料室のドアへと歩き出した。
野上に支えられていた私の身体が、ずるずると床へと沈む。
不意に見えた野上の顔が泣いているように見えて・・・
「野上!」
思わず呼び止めた。
だけど野上はそれを無視したまま足を止めることはなかった。
「待ってよ、野上!」
再度呼んでも、私に構わずにドアノブに手をかけた野上に私はもう一度叫んだ。
「い・・・いっくん!!」
その瞬間、ピタリと動きを止めた野上。
そして野上はゆっくりとこちらを振り向いた。
“いっくん”とは・・・小学校の頃の呼び方。
私はそう野上を呼んでいた。
「・・・千奈ちゃん・・・」
振り向いた野上はやっぱり泣いていて。
私も同じように泣いていた。
「ご、ごめんね、いっくん」
キスをしながら思い出した。
野上の言う“約束”を。
小学校の卒業式の後、野上と交わしたあの“約束”を。
「・・・思い出した?」
私の方に戻ってきた野上は、しゃがんだままの私と視線を合わせてそう聞いた。
私はコクンと小さく頷いた。
『大人になったら、ずっとずっと一緒にいようね』
幼い私たちの交わした約束。
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