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「はぁ・・・・今日も川谷課長、素敵・・・・」
気を抜けばつい視線が行ってしまう。
私から右斜め前方の課長席へ。
そこに座る川谷課長へ。
色素の薄い少し長めの髪。
奥二重の瞳が印象的な整った顔立ち。
33歳の割に肌も綺麗で、33歳という若さで課長職。
そして課長を更に際立たせているエピソードがある。
『課長って、結婚して半年で奥さんを交通事故で亡くしたんだって。10年経った今でも奥さんが忘れられずに、どんな美人から告白されても上司から縁談持ちかけられても断ってるそうよ』
その証拠に課長の左手薬指にはシルバーリングが光ったままだ。
年末調整の用紙にはきちんと配偶者欄の「無」に丸が付いていたのがまた切なくて胸の奥がきゅんとなった。
一途な愛を貫きながらも哀愁を纏ったイケメンがバリバリ仕事をする姿って・・・本当モえる。
私の大きな愛で課長の凍ってしまった気持ちを溶かすことができれば・・・!
なんて思ってる女子社員も数知れず。
そして私、垣原千奈(かきはらちな)もその一人だったりする。
でも今はパソコンを真摯に見つめる課長をうっとりと眺めるそれだけで幸せ。
───パコン。
「っ、痛っ!!」
突然頭上に痛みを感じ、そこを押さえて斜め後ろを見れば、ジッと不機嫌そうに私を見る野上がいた。
「ちょっと、痛いんだけど!」
小声でそう反論すれば、野上はツンと視線を逸らした。
「・・・よそ見し過ぎ。マジムカツク」
そうポツリと零すと、野上は自席へと戻って行った。
ったく、なんなんだ、野上のヤツ。
本当意味不明。
がっしりとした野上の背中に思いきり「イーッ!!」としてやった。
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