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突然割り込んできた第三者の声。
私と課長はゆっくりとそちらを振り向いた。
「え?野上君・・・」
「野上?」
その人が野上であることを確認した瞬間、重なっていた手が弾けるように離れた。
野上はツカツカと座りこんでいる私たちに近付いてきたと思ったら、グイッと私の腕を掴んだ。
「きゃっ!」
「何やってんだよ!」
ジッと課長を睨みつけた野上は、そのまま私を抱きしめた。
「こいつ、俺のなんで、ちょっかい出さないでもらえますか?」
「は、はぁ!?野上、何言ってんの!?
ちょ、離してよ!」
「千奈は黙ってろ。ったく、マジでよそ見すんな!」
「黙ってろって何よ!小学生の時の野上は、小さくて可愛くてころっとしてて、そんな言い方するような子じゃなかったのに!」
「俺も大人になったんだよ!いつまでも子供のままな訳ねーだろ」
「はぁ?いい大人がいきなりこんなことする訳!?ばっかじゃない!?」
「だいたいな、こんなとこで男と二人きりになる千奈の方が馬鹿なんだよ!」
「ば、馬鹿って・・・馬鹿って先に言った方が馬鹿なんですぅ!!」
「───プッ。ククククク・・・あはははは!!」
私たちの言い争いは、川谷課長の笑い声によって停戦した。
呆気に取られた私たちはただ川谷課長を見ていた。
「二人、仲いいねぇ」
笑い過ぎて出た涙を拭きながら、やっぱり笑いを堪えながら課長はそう言って立ち上がった。
「垣原さん・・・」
資料室のドアの前で立ち止まった課長は私の方を振り返った。
課長の顔は少し淋しそうで、でもジッと私を見据えて言った。
「先に“馬鹿”って言ったの・・・・垣原さんの方だったよ・・・プププ」
課長は笑いを堪えながらそう言って・・・資料室から出て行ってしまった。
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