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「・・・」
「・・・」
課長の去った部屋で、唖然としたままの私と野上。
そして、現在野上から後ろから抱きしめられているという状況に改めて気付いた。
「ちょっと、離してよ!」
野上の腕の中から離れようともがいてみるが、野上は更にその腕に力を込めた。
「ねぇ、野上ってば!」
バシバシと野上の腕を叩いてみるがその力が緩むことはなく、私の右肩に野上の顎が乗せられた。
「───っ!!」
熱い吐息を耳に感じ身体が強張った。
「・・・課長がそんなに好きなの?」
腕の力とは正反対に、力なく耳元で囁かれた声。
「なんで課長と手を握り合ってた訳?」
「あ、あれはたまたま・・・きゃっ!」
グイッと腕を引かれたかと思ったら、壁に押し付けられた。
肘を付いた野上に囲われるような体勢になる。
「俺が入ってこなきゃ、千奈・・・課長になんて言ってた・・・?」
クッと野上の眉間に力が入る。
冷たい瞳に据えられ、言葉に詰まる。
「・・・俺のことだけじゃなく・・・あの約束まで忘れたんだ?」
そう言った野上は目を伏せた。それはとても淋しそうに。
・・・約束?
・・・って、なんだっけ。
野上と、いつ、どんな、約束したんだろう。
視線を彷徨わせ答えを見つけられない私に、野上はフッと不敵に微笑んだ。
「・・・忘れたなら・・・思い出させてやるよ」
野上の顔が近付いたと思ったら───そのまま唇を奪われた。
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