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ユニクロあたりで買ったらしい薄手のダウンジャケットにチェックのワーキングシャツ。ぼさぼさ髪で学生みたいな風采の眼鏡男は、物珍しそうに倉庫内を見回した。
偶然迷い込んだみたいな表情を浮かべているが、もしかしたら、この不審者は本を盗もうとの窃盗犯かもしれない。最近は本を万引きして古本屋に売る輩に手を焼いている、と笹川さんにも教えられている。
そう気づいて葉月は腰を上げ、毅然とした態度で男を見すえた。いや、立ち上がってみると、ひょろりと痩身の男は結構背が高かった。
「ここは関係者以外立ち入り禁止ですから、出て行って下さい」
男は葉月の存在に今気づいたかに振り向くと、いかにもバツが悪そうな表情を浮かべた。やましそうな態度は窃盗犯の証拠だ、と葉月は手にしたカッターナイフを思わず両手で握り締めた。
「いや、その、・・たまたま通りかかったものですから・・」
「たまたま、ってはず、ないでしょ? ほら、そこに「関係者以外お断り」って大きな看板が出ているじゃない。気づかなかった、なんて言わせないわ。
ここは配送関係の車以外、入ってもらっちゃ困るんです。さっさと出て行ってちょうだい!」
男のひるんだ表情に勇気づけられ葉月が迫ると、彼は降参という身振りで両手を上げ、後ずさりしながら吐いた。
「あの、何も、ナイフを振り回すこと、ないでしょう? 物騒ですね」
言われて、興奮のあまりカッターナイフを男に向かって突きつけていたことに気づく。
「余計なお世話だわ。仕事中に邪魔したのはどっちよ。早く出て行って!」
「はい、はい」
そう口の中で呟くと、闖入者は戸惑いながら身をひるがえした。
男が間違いなく裏道の角を曲がって立ち去る姿を見届けてから、葉月は仕事に戻った。配達された本の題名と冊数を伝票に照らし合わせて確認する。
本の山を荷台にのせながら、怪しげな不審者を見事に追い払った手柄を自画自賛したくなった。もしかして、書店から褒美金でも出してもらえるだろうか。
笹川さんによると、書店は利益率が低いから、本を一冊万引きされるだけで数十冊分の利益が吹き飛ぶそうである。取次から配送された新刊本を箱ごと盗まれたりしたら、被害は甚大だ。
それをまさに身体を張って防いだのだから、金一封ぐらいもらってもいいかもしれない。
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