290人が本棚に入れています
本棚に追加
・・・・・
卒業式が終われば少しだけ休みをとって、いよいよ二番隊として火星の任務につく。
アキラはアース警察の中枢である、ロメオバンクス州に生活の拠点を移すことを決めていた。
当分、家族とは離れて暮らすことになるのだ。
実家を出る最後の夜。
一人立ちの寂しさもあってか、弱気な気分に押しつぶされたアキラは、柄にもなく母親の胸で泣きだしてしまった。
「アキラ、よしよし……」
母親は両手で優しく抱きしめてくれた。
「あなたは私たちの誇りよ。寂しいけど、元気でがんばりなさい。泣きたくなったら、いつでも戻ってきていいんだからね」
「ありがとうママ。何だか不安になるの。このまま行かなくていいなら、行きたくないくらい......」
「らしくないわね。いつもの元気はどうしたの?」
「アキラ」
そこへかけられた普段は寡黙な父の声に、アキラはハッと顔を上げた。
彼は先程までリビングのソファから静かに様子を窺っていたが、いつしか母親とともにアキラに寄り添っていたのだ。
「いきなりの大役で臆するのはわかる。だがお前は強い娘だ。パパはずっとお前の努力を見てきた」
アキラの父親は退役した元アースSPである。
宇宙の平和のために働くヒーローだった彼の姿を、アキラは昨日のことのように覚えていた。
そして今では一番の心の支えとなってくれる、自分だけのヒーローなのだ。
最初のコメントを投稿しよう!